第243回
オリンピックはスポーツをダメにする?!
2018.01.18
  • 河本 英夫 (東洋大学教授)
  • 平尾 剛 (元ラグビー日本代表、神戸親和女子大学准教授)
  • コーディネーター:加藤 秀樹 (構想日本 代表)

平尾氏は「過当な競争が強いられる勝利至上主義は選手を疲弊させる。子供のころから練習を重ね、上達する過程で自発的な創造性が育ち、それを積み重ねた結果が勝利であり、正しいスポーツのあり方だと思う。勝利や記録を目標にすると、プロセスから得られるはずの多くが失われる。また自分の経験でも、記憶に残っているのは勝敗よりも、うまくパスが回せた瞬間などの場面だ」と述べる。

河本氏は「人がスポーツをする中で、自分の能力が伸びたことをどこで感じるかは重要。それまでできなかった体の動かし方ができるのは、通常の学習とは違う。日本のプロスポーツでは能力を型(フォーム)にはめ結果を出そうと指導するが、本来の力を発揮できずに引退することも。『欠点』を直すことが、能力を抑え込むことになる。アメリカ大リーグではいびつなフォームでプレイする選手が多いが、当人の力を最も出させる指導法によるもの。また記憶に残るような場面を作ることの積み重ねが、結果として勝利や記録が伸びることに繋がる」と指摘した。

加藤の「場面や感触という言葉がよく出るが一体何か」という質問に対して、平尾氏は「その経験を言葉で表すのは難しい。身体実感は言葉にしづらいがゆえに残らないが、指導者はそれを体感させるために手を尽くす必要がある。直接言葉にならないことを自覚しつつ、それを話すことが大事。昔からの根性論は肯定しないが、言葉で肝腎なことが伝わらず『100回やってみろ』となる。技を伝承していく言語を、今後もっとふくよかにしていかなければ」と答えた。河本氏は、「言葉が経験の妨げになることが多い。言葉でわかったと思うとそこで終わる。だが実際やってみるとわかったこととは違う。答えがないから考えるのを止めるのではなく考え続けることで前進する」と述べた。

「人はなぜスポーツをするのか」という会場からの質問に、平尾氏は「人は動くことを本能的に欲求しているのでは。日常とは違う刺激を味わうことで、何かしらの快感を得ようとするのかもしれない。子どもが水たまりに飛び込んだり、木に登ることも同じだと感じる」。河本氏は「職人、農業、林業などに従事している方は、スポーツ選手より創造的な体の動かし方をしている。スポーツというのは、そういう職人的な工夫の周辺にある」。加藤は「生きることから体を使うことが抜け落ちたことで、それをエンターテインメント化、ショー化しているのではないか」と各々考えを述べた。