第165回
大震災を機に「生活仕分け」をしてみよう
2011.05.25
  • 石原 一子 (景観市民運動全国ネット 代表)
  • 内山 節 (哲学者、NPO法人森づくりフォーラム 代表理事)
  • 松井 孝典 (千葉工業大学惑星探査研究センター所長)
  • コーディネーター:加藤 秀樹 (構想日本 代表)

東日本大震災及び原発事故の経験を経て、電力供給不足が懸念される中、改めて「生活仕分け」をすることで、私達の生活をどのように変えるべきか、その方向性を探った。

石原氏は、「誰かの犠牲のもとに電気を湯水の如く使う自らの生活が成り立っていたことを知りショックだった」と語り、「日本人の電気の使い方をもう少しスリムにできるのではないか、今よりも小規模で分散型の社会システムが望ましいのでは」と言う。加藤がこれに対し「勤務先への電車移動に何時間とかけずとも自宅から近い範囲に勤め、エネルギーや水に関してもユニットを小さくすれば小回りが利き省エネとなる」とつけ加えた。松井氏も「消費電力の3割減のためには東京の人口を3分の2にし、企業も東京から分散し、他の大都市も分散化を図れば可能だ」と述べた。

これに対し内山氏は、「全ての問題を数に還元して考える社会の危うさを指摘。ユニットが大きい社会では数に還元し現状を把握・管理し問題解決を図るが、その中身を見ると一人ひとり困っている背景や内容が異なり、数字は問題の解決手段にはならない。最後の解決手段は数字ではなく、本人や家族や周りの人間が、その後何とか気持ちにふん切りをつけながら生きていけるようにしていくこと」と語る。数で全てを捉えずにすむ程度の小単位を基礎としながら、同時に広い地域との繋がりのあり方を考えなくてはいけないとまとめた。そして現実問題として都会の自販機やコンビニの氾濫を指摘しながらも、「これらを減らす場合も、携わり働く人々への配慮なしに清算することは、数字だけを追ってきた従来と同じになってしまうために注意が必要」と指摘する。

石原氏は、「女性は生活環境に対し敏感な感覚に優れているため、日本が本当に国を立て直したい場合、家庭で子供を守る女性が欲することを汲み入れる社会でなければいけない。何も外へ出て働くだけでなく、家庭の中で働く女性の意見も汲み入れてほしい」と話す。

松井氏は、「今回の震災は、右肩上がりを前提にしてきた日本のグランドデザインを見直すチャンスである」と述べる。「産業革命以後、地球上の物質循環やエネルギーの流れを人間は意のままに加速させ豊かさを手にしてきた。しかし、ここにきて初めて右肩下がり、または定常状態の時代に直面している。だからこそこの震災を機に再び右肩上がりを目指すのでなく、今後どういう『人間圏』を作っていくのか本質的な部分に立ち返り、時代に合わせた新たな文明を起こすことで、21世紀にも世界から必要とされる国になれるのではないか」との長期的な見通しを語った。

社会とは私たち1人1人の生活の営みそのものである。まずは「生活仕分け」から始めたい。