第79回
開発援助を通して考えた「人間の幸福」
―何が先進国・何が開発途上国?―
2004.01.27
  • 岸田 袈裟 (食物・栄養研究家)
  • 五月女 光弘 (外務省NGO担当大使)
  • 重田 真義 (京都大学大学院助教授)
  • コーディネーター:蟹瀬 誠一 (ジャーナリスト)

アフリカの開発支援を巡る状況は近年大きく変化しているが、現地の住民生活に根差した活動をしてきた専門家達の言葉は普遍的だ。

岸田氏は30年弱にわたるケニアでの草の根活動で、日々の暮らしの改良を指導してきた経験から、「伝統にはそれなりに理のかなったものが携わっている」と話す。アフリカ各国で大使を務めた五月女氏は、戦後日本の急速な復興を可能にした海外からの資金援助の経験から、「日本の技術力を有効に使って努力して返す」という伝統的な考え方を取り入れたのが円借款であること―これが欧州諸国の無償資金援助の考え方と根本的に異なる点などを語った。日本人はものを借りたら返すことが当然の価値観だと思いがちだが、世界的にみるとそうでもなく、「貸し借りした者同士に生まれるある種の関係が継続していることに深い意味があるのではないか」と語るのは重田氏。世界の多様な価値観に気づかされる。

「支援を受けた現地の人々は幸せになったのか」という問いに対して岸田氏は、「私は援助という言葉に抵抗がある。援助の本質は思いやりの心。経済的に余裕ができれば自然に他人を思いやる余裕が生まれる。私自身、最初は彼らが貧しいと思い、思いやりでこの道に手を染めたが、実際は彼らが精神的にとても豊かと知った。今は、気持ちの交流や結びつきを通して自分の心が豊かになることが大きい。日本人は物質的には豊かだが、果たして精神的にはどうかと自省しながらお付き合いしていかなければ」と話す。重田氏は、「現地の彼らはどう考えているか、我々が現場にいる時は声が聞こえるが、帰国後東京でそれを議論しても全く伝わらず反映されない。このギャップを埋める作業はシステムとして必要。また彼らには彼らなりの幸せの基準があり、私達が彼らの立場でもって判断するトレーニングが圧倒的に欠けている。だから彼らの幸せがどうのこうのと我々が語る資格はないんです」と重田氏は締めくくった。

改めてこうして根本に立ち返り、支援や幸せの意味を問うことは、現代の日本に生きる私たちにも価値のあることだ。