- 【No.318】なぜ日本の教科書はおもしろくないのか
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JIメールニュースNo.318 2007.9.21発行
なぜ日本の教科書はおもしろくないのか
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◆◆ 目 次 ◆◆
1.【なぜ日本の教科書はおもしろくないのか】
2.【第122回「J.I. フォーラム」のご案内】
*構想日本ホームページで「ワンクリックアンケート」開催中。
「Q:次期首相に重点的に取り組んで欲しい政策分野」にお答えください。
〔アンケート期間:2007/09/14(金) ~2007/09/23(日)〕
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http://kosonippon.org/wp-manager/enquete/index.php?m_enquete_cd=47
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1.【なぜ日本の教科書はおもしろくないのか】
総合研究大学院大学教授
長谷川 眞理子
高校生物の教科書の作成にかかわり、文科省の教科書検定というものを体
験した。
結論として、文科省による現在のような教科書検定は不必要である。それど
ころか、教科書をつまらないものにし、教育の質をさげている元凶だと思われ
る。
教科書検定の指針となる学習指導要領の記述は、簡単なものだ。それを解
釈して、「これはダメ」、「これは入れるべし」と決めるのは、文科省が選任した
検定官(正式には教科書調査官や教科用図書検定調査審議会の専門委員
と呼ばれる人達)である。
まず、これだけ大きい権限を持った検定官の選任の仕方が、極めて不透明
である。次に、執筆者が書いた元の文章の隣に検定官が「ここが悪いから直
せ」という指示を書いてくるが、その判断基準が非常に恣意的である。前回
良かったことが今回ダメだったりする。それを「前回良かったじゃないか」と言
うと「解釈が変わった」と言われる。
検定意見のおおかたは、「誤り」「不適切」「理解しがたい」「学習指導要領の
記載を超えている」という風に、判で押したようなものだ。しかも、平成13年度
に検定を受けた「高校生物I」を例にすると、“明らかに誤りである”という指摘
は全体の7%ぐらいでしかなく、表現の修正を求めたり、内容に制限を加えた
りする意見が大半を占めている。
教科書検定は、科学のおもしろさを伝える、魅力ある教科書づくりをしよう、と
いう姿勢では行われていない。法律文書を点検する姿勢のようで、「おもしろ
くしたいというお気持ちはよくわかります。でも、それはできないのです」という
答えが返ってくる。
法律文書は、読んでおもしろくないのみならず、科学や国語を教える上で不
適切なことが多い。だから、日本の教科書はおもしろくなく、子供がそっぽを
向くのだ。
法律文書の感覚で検定するので、たとえば、「受精後の発生過程」という図
に関して、こんなクレームがつく。ネズミの受精後に卵分割が始まり、発生が
進んで胎児がだんだんに作られていって、最後に出産が起こるという図だった。
それに対し、「出産は発生ではありませんので、出産を削除してください」。
言葉の定義から言えば、出産は発生ではないだろう。しかし、一連の発生過
程の説明で、最後に出産を入れないことが、科学的な態度と言えるだろうか。
また、前回の指導要領で、「高校生物I」に書くべきことの中から「進化」が落ち
た。
そうしたら、進化の記述は絶対に一つもいれてはいけない、進化をにおわせ
る記述も一切ダメ、という調子で検定が行われ、日本中の教科書から一斉に
進化の記述が消えた。なんの国民的議論もないまま、キリスト教原理主義者
が優勢を占めるアメリカ南部諸州よりもひどい状態になったのである。
そんな指摘の積み重ねが最終的に250個以上あると、自動的に検定に落ち
てしまう。くだらないことでも数多く指摘されて、総数が250を超えるとダメにな
る。
検定官の解釈が執筆者の判断と合わない場合が多々あるが、絶対に文科省
の意見のほうが強い。反論するチャンスも与えられない。今どき、こんな官尊
民卑も珍しいだろう。検定を行うことの大きな目的の一つである間違いのない
記述にするというのは、大事なことだ。ただし、それを文科省が今のような体
制で行うのでは、ベストから程遠い。
国が指針としての学習指導要領を決めるのはよいだろう。ただし、文科省に
よる教科書検定はやめ、各教科書会社が執筆者とは別の委員会を作って査
読を行い、あとは市場にまかせたらよいと、私は思う。
* 長谷川 眞理子(はせがわ まりこ)氏のプロフィール
1976年、東京大学理学部生物学科卒業。東京大学大学院理学系研究科人
類学専攻博士課程修了。理学博士。83年東京大学理学部助手、ケンブリッ
ジ大学動物学科特別研究員、エール大学客員準教授、専修大学法学部助
教授、同教授、早稲田大学政治経済学部教授を経て、現在に至る。専門は
進化生物学、行動生態学。おもな著書は、『ヒトはなぜ病気になるのか』(ウ
ェッジ)、『クジャクの雄はなぜ美しい?増補改訂版』(紀伊国屋書店)、『生き
物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社)、『科学の目 科学のこころ』(岩波新書)
など。
※ご参考:J.I. フォーラムでも「教科書検定」を取り上げました。
第118回 「教科書検定を検証する」 〔2007年5月23日(水)〕
↓ ↓ ↓
http://kosonippon.org/wp-manager/forum/detail.php?m_forum_cd=191
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2.【第122回「J.I. フォーラム」のご案内】
現代の「生老病死」
~ 介護の本当の問題は何なのか ~
「介護」という言葉が一般的に使われるようになって10年ほどでしょうか。
医療、高齢者の生活、家族構成などの急激な変化がその背後にあります。
現代の「生老病死」が凝縮された言葉が介護のように思えます。したがって、
制度も重要ですが、制度では対応しきれない問題も数多くあります。
制度も現実も熟知した岩川徹さん、太田秀樹さん、加藤仁さん、菅野安子さ
ん、竹内孝仁さん、片寄斗史子さんに、私たち全員が必ず直面するこの問題
の現状について語っていただきます。
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日 時 : 平成19年9月25日(火)
会 場 : 日本財団ビル1階 バウルーム
港区赤坂1-2-2 TEL 03-6229-5111(代)
(http://www.nippon-foundation.or.jp/org/profile/address.html)
開 演 : 午後6時30分(開場:午後6時)
ゲスト : 岩川 徹(元秋田県鷹巣町長)
太田秀樹(在宅ケアを支える診療所全国ネットワーク 全国世話人 )
加藤 仁(ノンフィクション作家/『介護の「質」に挑む人びと 』著者)
菅野安子(グループたすけあいエプロン理事長)
竹内孝仁(国際医療福祉大学大学院教授)
コーディネーター : 片寄斗史子(『いきいき』編集部 編集長)
主 催 : 構想日本
定 員 : 160名
フォーラム参加費 : 2,000円(シンクネット・構想日本会員は無料です)
懇親会参加費 : 4,000円
(ご希望の方は下記懇親会参加に○印をつけてください)
※ゲストを囲んで、下記の会場で懇親会を開催いたします。
「トラットリア・イ・プリミ 虎ノ門店」
港区虎ノ門2-2-1 JTビル1F TEL 03-3589-5812
(http://www.ep-tokyo.com/iprimi/toranomon/)
————————————————————–
参加ご希望の方は、9月24日までに出欠の是非を、下記のメールアドレス
にお申し込み下さい。
forum@kosonippon.org
お名前
所属
ご連絡先
懇親会に 参加する 参加しない
————————————————————–
*参加申し込みに関するお問い合せは、
事務局 木下まで。TEL 03-5275-5665
*内容に関するお問い合せは、
フォーラム担当 西田まで。TEL 03-5275-5607
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