- #1「神」
2024.05.02
自分ごとになった言葉について考える「自分ゴトバ」のコーナー。第1回はなんと「神」です。
なぜかというと、あっちこっちで「神」に出くわすんですよ。特にSNS。あ、ここにも「神」がいる。あらまたこちらにも、というぐあい。いたるところに「神」が宿る八百万の神とは、このことか。思えば10年くらい前からでしょうか。対処のしかたが感心するほど優れていれば「神対応」。YouTube動画のきわめて貴重な回を「神回」。ひときわクリーミーなビールの泡は「神泡」。みなさんも聞いたことありませんか。
「神」とは「超」の意味で、「ものすごい」を「神ってる」と若者たちは言います。これまでも「神がかる」「神の手」といった言葉は使われていましたが、いまや日常のいろんな場面で、ずいぶん頻繁に「神」が現れます。でも、ぜんぶ人間の世界の話なんですよ。自然という人知を超えた存在に触れることが少なくなった結果、驚くものが人間のやっていることに限定されているのではないでしょうか。
私は釣りバカですが、海の変化はまさに神業であり、魚の行動は超能力に見えます。予測もコントロールも不能。自然に向き合えば、その強大で不可解な力そのものに「神」を感じるのです。地震も噴火も台風も、誰かがボタンを押して起きているわけではありません。ひとりでにそうなる驚異と脅威。不思議さと畏るる気持ちを与えてくれます。
ちなみに妻を示す「かみさん」の語源は諸説ありますが、そのひとつが「山の神」。確かに。家庭にそびえ立ち、逆らうと災いが降りかかる。くわばらくわばら。
◆谷野栄治
クリエイティブディレクター。構想日本の広報宣伝に携わる。趣味は釣り。アジ、メバル、ブリをルアーで狙う。休日は愛犬の柴犬タローと海辺を散歩。