構想日本20周年記念懇談会「奔想日本」で代表の加藤が「構想日本が目指す社会」についてお話しました。
その際のスライド資料と配布した文章です。ぜひご覧ください。
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構想日本はどんな社会を目指しているのか
1.問題意識
日本社会がこれからどんな方向へ向いていくのが良いのか。
それを考えるには、まず私たちが今どこにいるかを考えないといけません。
以下、それを大まかに整理してみます。
第二次大戦後、日米欧などの「先進国」が実現し、「途上国」が目指してきた国のかたちは次の三点セットです。
- 福祉国家
- 民主主義
- 経済成長
昨年、世界を驚かせた二つの大事件――トランプ大統領とイギリスのEU離脱(Brexit)は、この三点セットに対するレッドカードです。
これらはポピュリズムの結果であり、愚かな選択だというのが大方の評価です。しかし、より本質的なことは、そのポピュリズムを勝たせた背景です。
上記の三点セットは、(1)国が国民の生活の一定レベルの保障(医療、雇用、教育、インフラ・・・)をする。(2)そのために国が何をするか(優先順位づけ)、費用をどうするか(税)を国民が選んだ議員や首長が決める。(3)1、2を経済成長が持続的に支える。という関係で回ってきました。
ところが、これが順調に回るほど(ⅰ)国民は国によるより高い福祉の提供を求め、(ⅱ)政権、政治家は有権者の様々な要求に応えようとバラマキ的になり、(ⅲ)経済成長にそのツケを回すようになってきました。
国家運営に求められるだけでなく、経済成長は個人のレベルでも半世紀以上にわたって大きな恩恵をもたらしました。だから先進各国の国民も、より大きな経済成長は歓迎ですし期待もします。いわば「経済成長」がここ数十年様々な期待を一身に担い、目的化してきたわけです。
ところが、先進国の成長率は、もはやそれほど大きくはなりません。さらに、経済成長は自由化とグローバリゼーションと表裏一体です。そして、そのマイナスがプラスより大きくなり、ついに火を噴いたのがトランプ大統領とBrexitでしょう。
自由な経済とグローバリゼーションを先頭切って進めてきたのがアメリカ、イギリスだったことも象徴的です。
日本は、移民、格差などの問題は欧米ほど表面化していません。それは歴代政府が自由化を抑制的に進め、また自由化の救済措置を含め財政拡大を続けてきたからです。その結果、日本では移民や格差問題が小さい分、先進国中最大級の財政赤字という形でツケが回っています。政治がポピュリズムを率先してやってきたため、ツケの内訳が欧米と違うだけです。
これもやはり持続可能ではありません。
この事実を私たちは現実感を持って謙虚に受け止めないといけないと思います。
アメリカ、イギリスに続きフランス大統領選挙にも見られるように、上述の三点セットの蝕みは急速に進んでいます。日本の財政も崖っぷちにいます。
ポピュリズムを蔓延させない、そのためには格差を縮める、過疎過密に歯止めをかける、都会のストレスを減らす、経済も社会も持続可能性を重視する、等々の視点で考え、また全国各地の「庶民」、現場で動いている人たちとの対話の積み重ねの結果、まとめたのが以下のようなことです。
2.基本的な考え方
- 国、地域の経営は経済成長を前提としない。また成長を目的化しない。
- 行政が担ってきた公的な分野とその意思決定を極力住民、コミュニティに委ねる。
- 政治・行政を国民が「自分事」化する(行政が税金を使う→住民が体を使う)ことによって「低コストで高満足」な社会をつくる。
- 「自分事」化によってポピュリズムに対する抵抗力をつける。
- 近い将来起こる可能性が高い財政危機には別途再建策が必要。但し、危機に陥った方が1~3は進め易い。
3.構想日本の主な活動
構想日本の具体的な活動は、上述の「基本的な考え方」に沿って行っています。「地域活動」は政治・行政の自分事化を進めるものです。「政策提言・実現活動」の中身にも共通点があります。「単位」を小さくし、分権化するということです。その方が医療でも金融でも教育でも他人事でなく自分事となり、参画しやすく、結局はコストも安く満足度が高くなります。
(1)地域活動
「事業仕分け」や「住民協議会」など無作為に選んだ住民の政治・行政参加
※111自治体で226回実施。無作為抽出案内送付数約14万人、応募住民約7千人(2017年4月現在)
(2)政策提言・実現活動
- 医療・介護:「地域健康管理医」
- 金融:「顔の見える地域金融」
- 国と地方:地方交付税制度改革
- 教育:教育委員会改革
4.自分事化巡業
20周年を機に、これまでの活動に加えて「自分事化」を拡げ加速するために以下の様なことを行う予定です。
- 全国各地で、様々な分野の人たちが議論する場を作る。
- 議論のテーマは医療や子育てなど身近なものだが、議論を通して参加者が地域のあり方や、日本の社会はこれで良いのか、政治はこれで良いのかなどを考えるような進め方とする。
- 議論の参加者は、無作為抽出で選ばれた住民を中心に、行政職員、研究者、学生など、多様な意見が出る構成とする(いわゆる審議会的なものではなく一般庶民中心)
- 1年間で6~8回開催し、主にネットメディアで発信する。
- 効果としては国民の側のいわゆる政治リテラシーの向上と政治・行政の側の現場のリアリティ回復を期待する。
5.さらに忘想的世界構想
1や2のような考えを進めていくと、経済、社会についていずれこんな考え方を検討する時代になるのではないかと考えています。世界を国境で区切るよりも、二層に分ける考えです。ある意味での「保護主義」の制度化といえるかもしれません。
「世界二制度」― グローバルとローカルの共存