【議事概要】第209回J.I.フォーラム2015.02.18
「日本の財政、本当はどうなのか」~金融とあわせて考える~
ゲストは慶應大学教授の池尾和人氏と法政大学准教授の小黒一正氏。
最初に、構想日本代表加藤から日本の財政についての現状の説明がありました。
加藤代表「現在の国の借金は、税収の15年分にあたる。」
加藤代表「まず、日本の財政の具体的な状況を共有しておきたい。現在の国の借金は800兆円にのぼり、一般会計の税収の15年分にあたる。ここに地方の借金を合計すれば1000兆円を超え、国民一人あたり約800万円に相当する。G7の中でも日本の対GDP比での純債務残高は突出している。そこで27年度一般会計予算を見ると、総額96兆円のうち国債費(償還費+利払い費)が4分の1を占める。残りの基礎的財政収支(プライマリーバランス)対象経費の中では、社会保障が3割、地方交付税が2割。国債金利は昭和5、60年代には6~7%で推移していたが、その後緩やかに下落し、現在は1%代で推移している。金利が上がると利払い費に関しても横ばい状態が続いていたが、近年は上昇傾向にある」
次に小黒氏から、今後の財政状況の見通しについての説明がありました。
小黒氏「消費税率を100%まで引き上げるというシナリオが現実味を帯びる。」
「1.実質GDP成長率0.9%、2.2030年という時期、3.12年という期間。この3つのキーワードで説明する。
一つ目、実質GDP成長率0.9%について。内閣府はこれまでも中長期試算を策定し、経済成長が高成長のケースと低成長のケースを出している。しかし今回、1.3%と算定していた低成長ケースの成長率を0.9%に下方修正している。こうした動きは過去には例がなく、従来よりも成長率を抑えたシナリオをモデルケースに据えているようなニュアンスを持たせている。経済成長率が国債金利よりも高ければ対GDP比での債務残高は縮小していくが、今回政府が発表した低成長ケースでは、経済成長で金利をカバーしていくことは困難だ。
二つ目、2030年という時期について。27年度予算で最も規模が大きいのは社会保障費。国費支出額が毎年度1兆円増大し、給付費は平均で約2.2兆円増加している。一方、社会保険料収入は20年くらい前から伸びていない。よって給付費と収入のギャップを国と地方で埋めていることになる。特に国の場合は財政赤字で、この状態が続くと、公的債務の対GDP比は限りなく大きくなり、消費税を100%まで上げないといけなくなってしまう。そうならないようにするぎりぎりの期限は、消費税率が5%のままなら2028年、10%に引き上げても32年。10%に引き上げても、4年しか違わない。
三つ目、12年という期間について。現在政府が発行している国債(借金)は800兆円。日銀が異次元緩和で買い入れる国債ボリュームが80兆円あり、ここから毎年度の新規国債発行額約30兆円を差し引くと、毎年度50兆円分の国債を買い入れることになる。しかし日銀以外が持っている長期国債は約600兆円であるため、12年後には買い入れる国債が無くなり、金融緩和政策が行き詰まる。このように、日本の財政を取り巻く状況は険しくなってきている。財政改革をするにあたって、相当程度の抜本的な増税や社会保障費の抑制を行わなければ、2030年代には消費税率を100%まで引き上げるというシナリオが現実味を帯びる」
池尾氏「現在の国の借金は、税収の15年分にあたる。」
池尾氏は金融緩和のメカニズムを通して財政を解説。
「金融政策はお金を配ることではなく金融資産の売買(等価交換)であるため、バランスシートを念頭に置いて考えることが肝要だ。これまでの財政赤字の累計分だけ政府が借金(国債発行)をし、その国債を日銀と民間銀行が保有している。民間銀行は家計などからの預金の一部を日銀に再預金している(準備預金)。また日銀から借入も行なっている。日銀が発行している現金と民間銀行からの準備預金を合せたものがベースマネー。世の中に出ているお金の総量がマネーストックだが、それは日銀と民間銀行を統合した銀行部門全体を考えたときの負債に相当する。ベースマネーが増えただけではマネーストックは変わらず、民間銀行が貸出を増やして初めて増える。日銀が国債を買っている原資は民間銀行の準備預金、つまり国民の貯蓄が預金されたものであり、財政赤字は最終的に国民によって賄われている。日銀が打出の小槌を持っているわけではない。
財政赤字に関して、政府(日銀)は国債と違い現金を発行すれば利払いの必要がない(貨幣発行益)ことを理由に、楽観視する考えがある。また、日銀は永久に国債を保有できるため、その償還に悩む必要はないという意見もある。しかし、民間部門が現金を保有しようとする範囲内でしか現金は発行できない。現在の様なゼロ金利制約下では現金保有の需要が高いため、ベースマネーの供給を増やしても需要と供給は均衡する。ところが、今後インフレが昂進すると現金として手元に保有する誘因が減少し、ベースマネーの需要が小さくなるため、それに伴って日銀は逆にベースマネーの供給量を抑制する必要がある。一般的に現金流通量はGDPの8%が適正だと言われる中、現状ではその2倍の額の現金が世の中に流通している。これはゼロ金利政策下であるから問題が発生していないのであり、今後ゼロ金利政策が解除され、金利が復活すれば、長期的には貨幣発行益は享受出来なくなる」
小黒氏「経済成長のみで財政再建の成功確率は極めて低い。」
その後は、中長期的視点から財政赤字の現状や再建への道筋、さらには財政破綻という状況について意見が交わされました。
小黒氏「経済成長のみで財政再建の成功確率は極めて低い。内閣府の中長期経済財政試算の本年2月12日版を見ても、基礎的財政収支のGDP比は2020年で赤字になっている。政府目標においても2020年度プライマリーバランスは達成しておらず、目標達成は困難だと事実上認めている。いずれにせよ、基礎的財政収支のGDP比を改善しない限り、財政再建はできない」
小黒氏「大増税を断行せざるを得ないのではないか。」
「財政破綻とはどういう状況を言うのか。入札をかけても国債が捌けなくなる。現在は新規国債を約30兆円発行している。かつてねじれ国会の時に特例国債が発行できない事態に陥り、その際は地方自治体へのお金の交付時期を延ばすなどの対応をした。新規国債は借り換えとは異なり、貯蓄との関係で穴埋めができなくなると問題が顕在化する。国債を捌けなくなると、増税や歳出削減の検討、日銀からの一時的な借入、短期証券の発行などが想定される。増税や歳出削減を巡って国会が混乱する可能性も高いが、このような状態に陥るといわゆる財政破綻と言える。いずれにせよ、その先には、大増税を断行せざるを得ないのではないか」
「財政破綻を避けるためにも、社会保障の予算の削減を念頭に置くべきだ。社会保障費は国だけなら31兆円だが給付費全体で見れば110兆円であり、これを1%抑制するだけで1兆円の改善ができる。削減だけでなく再分配の仕組みも含めて考えていくべきだ」
池尾氏「中福祉・高負担、もしくは低福祉・中負担のどちらかが選択しになる」
池尾氏「財政赤字の埋め合わせをしているのは、我々の貯蓄だということを忘れないで欲しい。その意味で、現在のように貯蓄額が増えていけば財政赤字も埋め合わせができる。しかし、人口動態を考慮すると、今後は貯蓄額が減少していくことは確実であり、現時点ですら銀行預金高が減少している地域も存在する」
「ベースマネーとマネーストックの関係性としては、量的緩和のベースマネーを増やした時に民間銀行が貸出を増やそうとするかは、利ざやを取れると考えられるかどうかになる。貸出金利は長期金利に連動し、ベースマネーを増やすと、短期資金の需給が緩和するため短期金利が下がる。同様に長期金利も下がるが、短期金利よりも下げ幅が少ないため、利ざやが拡大する。これが伝統的な仕組みだ。しかし短期金利がゼロの環境下では短期金利はこれ以上下がらず、一方で長期金利はさらに低下するため、利ざやは圧縮される。この状況下では、金融機関は貸出を渋るため、量的緩和の効果は限定的だ。」
「財政再建は目先1,2年ではなく、25年間程度のスパンで考えるべきだ。目下の財政悪化の要因は社会保障が中福祉の一方で国民負担が低負担であることだ。しかし、今後の人口減を考慮すると、中福祉・中負担にするだけでは不十分で、中福祉・高負担、もしくは低福祉・中負担のどちらかが選択肢になる。次の世代のことを考えれば中負担だが、それでも消費税を上げる必要があり、この夏までに政府が策定する財政再建計画が非常に重要になってくる」
加藤代表「これからは、予算の大きさだけで住民に提供している便益を計る時代ではなくさないといけない。」
加藤「財政再建の最大の要素である社会保障を考える場合、社会保障にかける金額と国民が享受する便益は、必ずしも比例するわけではないことを考えるべきではないか。夕張市の市立病院では、財政破綻に伴い病床数を9分の1まで削減したが、死亡率が変わらなかったのみならず、寝たきりの高齢者が大幅に減った。これは健康指導の徹底など、限られた予算の中でいかにして医療費を抑えるかに腐心した結果だ。こうした夕張市の例は、国の社会保障費削減についての議論に一石を投じるものだ。予算をつければ行政サービスのレベルが上がるということではない。これからは、予算金額の多寡だけで行政が国民、住民に提供している便益の大きさを計る時代ではなくなさないといけない」