問題の所在
1.組織改革のポイントは「設置法」の書き方
省庁の再編は、最終的には各省庁設置法の書き換えによって行う。この作業は、省庁再編に伴う付随事務として機械的に行えばすむように見られがちである。しかし、実は改革が実効のあるものになるかどうか、ここが大きい勝負のしどころなのである。この法律の書き方(所掌事務及び権限に関して)次第で、省庁の数は減っても中身は変わらないという結果にもなりかねない。そこで、設置法の書き方に一定の枠をはめておくことが必要となる。
2.「お上意識」を支える現行の各省庁設置法
設置法は我々の日常に身近な法律ではないが、現実には政府と国民の関係に大きな影響を及ぼしている。わが国行政の顕著な特徴として「お上意識」の強さがある。これを支えているのが、広汎な行政の介入を可能にしている現行の設置法の規定である。新しい設置法が現行法制をそのままの形で継承するならば、「透明な政府の実現」や「より自由で公正な社会の形成」という行革会議の目標の達成は、不十分に終わる可能性が少なくない。
現状の問題点
1.組織法上の根拠に基づく行政の存在
本来、設置法は行政組織に関する定めであるのに対し、行政が社会に対する介入を行うためには、どの行政機関が、どのような場合に、どのようなことを行うことができるかについて定める行政作用法(行政組織について定める行政組織法に対し、これらの行政組織が実施すべき行政の内容を定める法)の根拠があることが必要である。そうであれば、行政組織のあり方に関する規定である設置法の定め方が包括的であっても、国民の権利・利益には影響がないはずであるとも言える。しかし、実際には、設置法の規定に基づいて介入が行われるケースが多い。例えば、農水省が減反割り当てを行うことができるのは、農水省設置法が規定する所掌事務の範囲内の措置であるからだとされる。しかも、減反割り当ては、法的強制力はないと言っても、事実上ほとんど強制力を持つに等しい。
2.各省庁設置法における権限の定めが不明確
現行の設置法では、各省庁の「所掌事務」と「権限」とを用語の上では区別している。このような区別は、「所掌事務」が行政内部の事務分担であるのに対し、「権限」は行政が対国民の関係において行使するものであるため、これをより限定的に定めてはじめて意味を持つ。しかし、現行の設置法において、この両者はほとんど同じになっている。言い換えれば、現行法上、各省庁は「所掌事務」全般に対応する「権限」を持つこととされている。
3.行政作用法の規定にも限界
一方、個別の行政作用法においては、権限行使の主体となる行政機関(各省大臣等)を定めているが、行政組織内部における具体的な権限行使の態様(○○局○○課が所掌する等)については定めがない。行政作用の態様に関する通則規定は存在せず、実際に存在する権限行使の態様や、その限界は明らかでない。
構想日本の提案
1.各省庁設置法には、不明確・包括的な権限の定めを残さない。
2.新たに「行政権限法」を制定する(法案骨子については、以下を参照)。
【A案】
各省庁設置法の中の権限に関する規定を削除するとともに、新たに制定する「行政権限法」の中に、個々の行政権限を、その根拠法令を明示する形で列挙する。
【B案】
各省庁設置法の中の権限に関する規定を、根拠法令を明記する形に改め、新たに制定する「行政権限法」においては、行政組織内部の規則等が国民を拘束するものではないことを確認する宣言規定を置く。
期待される効果
1.どの行政機関が、どのような権限を、どのように行使することが許されているかが明確になり、根拠の曖昧な行政の介入を防ぐことができる。
2.根拠規定を欠く行政の介入に対し、行政手続上の瑕疵を理由とする行政訴訟がやりやすくなる。
3.官民の関係において、官の「お上意識」及び民の「依存体質」の双方が変革を迫られる。
4.内閣による官僚機構のコントロールが容易になり、規制緩和の実効が上がる。
→ 結果的に、国民が行政の過剰な介入をチェックしやすくなり、国民の権利・利益が保護されやすくなる。
各省庁設置法の改正及び行政権限法の制定に関する骨子案
【A案】
1.各省庁設置法の中の権限規定を削除する。
2.以下の通り「行政権限法」を制定する。
①目的
国の行政機関による行政権限の行使の態様を明らかにすることにより、法律に基づく行政権限の適正な行使を保障し、もって国民の権利利益の保護に資すること。
②行政権限の定義
国が、国民、企業等の活動に対して、特定の政策目的の実現のために関与、介入する場合における根拠となる許可、認可等(例:許可、認可、免許、特許、承認、認定、免除、決定、証明、認証、解除、公認、検認、試験、検査、検定、指定、登録、届出、申告、提出、報告、交付等)
③行政権限の行使に関する原則
国の行政機関による行政権限の行使の態様について定める行政規則は、対外的な関係においては法的効力を持たない。但し、通達等が国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に影響を及ぼすと認められる場合においては、これを行政争訟の対象とすることを妨げない。
④国の行政権限
国の行政機関が有する行政権限については、この法律の中に、行政権限の種別に、根拠規定を明記する形で列挙する。
【B案】
1.各省庁設置法の中の権限規定を、個々の権限の根拠規定を明記する形に改める。
2.以下の通り「行政権限法」を制定する。(A案に同じ)
①目的
②行政権限の定義
③行政権限の行使に関する原則