2024.02.08
【代表コラム】「国民と政治家。こんなに違うのか!お金の扱い方」
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※このコラムは、Yahoo!ニュースエキスパート記事(2023/12/29)を再編集したものです。

1. 国民の常識、政治家の非常識
政治の世界では、私たち国民や企業が普通に守っているルール、国が決めたルールが守られていないことがたくさんある。例えば私たちは、

・個人のサイフと会社のサイフをごちゃ混ぜにしてはいけない
・もらったお金、収入は税務署に申告しないといけない
・何かの事業に国や自治体などから(税金による)「助成金」をもらった場合、細かな収支報告を提出し、お金が残ると返さないといけない

というのは常識だと思っている。ところが、政治の世界ではそうではない。逆に「ごちゃ混ぜ」「申告しない」「返さない」が常識になっているように見える。これらを国会議員について整理してみよう。

2. 日本の国会議員が使っている税金や寄付
税金や非課税のお金がどれくらい国会議員に使われているか。まず、議員個人に支払われる給与や様々な手当の合計が、一人当たり年間で約8,000万円、衆参議員全体で約600億円。次に、国から政党への助成金が300億円余り。そして、いま問題になっている議員の後援会や派閥などの政治団体に入る寄付、パーティー代金などの政治資金が約300億円。これは個人や企業などが出す金だが、非課税。これらをあわせると年間に約1,200億円。日本としくみが似たヨーロッパの主な国と比べると、日本はずっと多額の税金を使っている。以下、いま問題になっている政治とカネについて見ていこう。

3. サイフのごちゃ混ぜ
政治資金とは、単純に考えると政治家や政党などが「政治活動」を行うために個人や企業などから集めるお金だ。つまり、

・お金の出し手:個人、企業、組合など
・集め方:寄付、パーティー券販売など
・お金の受け手:政治家、政治団体、政党など

ところが総務省の資料を見ると、寄付者=お金の出し手として政治家や政治団体、政党が並んでいる。実は今回のウラ金作りのポイントはここにある。安倍派の政治団体=清和会がパーティー券を売って得た収入の一部を派閥の議員に渡したというのは、清和会が金の出し手になっているということだ。元々は個人や企業が出したお金が、政治団体、政党の間でぐるぐる回され、その過程で一部の金が収支に記載されず、ウラ金になっているのだ。また、多くの国会議員は自分の選挙区にある政党支部の代表者になっている。政党支部とは言っても、会社の本社と支社の関係ではなく、実態として支部は個々の国会議員の政治団体と変わらない。法律上、政治家や政治団体に対する企業の寄付が禁止されていても、政党(支部を含む)への寄付はできるから、支部で受けた寄付を政治団体(後援会など)に回せば、完全に抜け穴になる。サイフごちゃ混ぜの結果、こういうことになる。

4. 助成金は使いっぱなし、所得の申告はしない?
自民党の政治資金収支報告書を見ると、党から幹部議員に対して「政策活動費」として14億円超が支出されている(2022年)。最も多く受け取っているのは茂木敏充で10億円近くにのぼる。金額の違いはあるが、野党でも同じような金の支出がある。この金の原資は政党助成金や寄付、パーティー代金などだろう。「政策活動費」とは一体何なのか。

民間企業や団体が国や自治体から助成を受けると、極めて詳細な収支報告書(領収書などの添付を含め)が求められ、説明がつかない金は返さないといけない。ところが、政党助成金自体の収支報告書では抽象的な〇〇活動費といった説明だけで、帳尻は常に、「もらった金=すべて経費として使った、すなわち残金ゼロ」となっている。また、政党が党幹部に金を渡すと、それは受け取った議員個人にとっては収入になる。ところが、こちらも使途の具体的な説明はないままに、すべて「必要経費として使い切った」ということになっている。「だから税務署に申告しなくてよい」という理屈だ。以上のことをまとめると、政治資金とか政策活動費の内容がブラックボックスのまま、入ってきたお金をすべて使い切れば、「すべてが経費でした、だから税金を払うこともない、助成金を返すこともない、何に使ったか言わないし、聞かれもしない」ということなのだ。庶民感覚からすると信じられない。なにしろ国民や企業には「真っ白なボックス」が求められているのだから。

5. なぜ政治家にはブラックボックスが許される?!
政治資金についても、規正法によって監査が義務付けられている。ところが総務省の「政治資金監査に関する具体的な指針(マニュアル)」によると、この「監査」は政治団体のうち「国会議員関係政治団体」の収支報告だけを対象としている。しかし、上述のサイフのごちゃまぜ、すなわち政党支部や政治団体間で資金を自由に動かせる状況で、監査の対象を限定したのでは、全体の把握は全くできない。また、マニュアルによるとこの監査の基本的性格は「会計事務に対する外形的・定型的な監査」であって、「政治資金の使途の妥当性を評価するものではない」と断言している。使途を問わないのは民間では「監査」とは呼ばない。

6. “解き方”を間違ってはいけない政治資金問題
これまで見てきた問題に対して、何をしないといけないのか。簡単に方向性だけ示してみよう。まず、「絶対注意」なのは、政党や国会あるいはマスメディアで政治資金規正法の改正、とりわけ「寄付などの金額制限などを厳しくしよう」といった議論だ。金のぐるぐる回しを放置したまま一部の資金の規制を強めても、これまでの法改正と同じく何の効果もない。要は、ブラックボックスをなくすことなのだ。そのために必要なこととして以下が挙げられる。

1)政治団体を一つに絞るか、または政党支部を含め一つの「政治資金管理団体」ですべての資金収支を統括する
2)監査を外形的・定型的なものから、使途にまで踏み込んだものにする
3)2)と併せて、政治資金と政党助成金の収支報告を具体的な使途が分かるものにする

お金の扱いに関して政治家と一般国民ではこれほど違う。政治家は公人だし税金を使うのだから、本来は一般国民より厳しくないといけないのが逆なのだ。この「逆転」はお金だけでなく、いわゆるコーポレートガバナンス(企業統治)についても言える。企業では当たり前の代表者、取締役会、株主総会、事業や資金の収支に関するルールがほとんど整備されていない。詳細はあらためるが、この機会にお金と併せて政党ガバナンスのルールを定めないと、本当の抜け道封じにはならず、不祥事は必ず繰り返される。

構想日本代表 加藤秀樹