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公会計制度


2000/01/01(土)
【記事】「貸借対照表作り,国も急げ」日本経済新聞「経済教室」

<日付:1999年07月21日>(2001年8月14日掲載)


貸借対照表作り、国も急げ
―予算増の圧力抑制 将来負担含め情報開示を
日本経済新聞 1999年(平成11年)7月21日(水曜日)

1. 国や自治体は政治的な予算(コスト)増大圧力を受け続けている。財政規律の回復・向上には将来のコストも反映できる貸借対照表尾(バランスシート)の作成がもとめられる。

2. 国に関し試算すると九百兆円の債務超過になったが、財政破たんだとは即断できない。厚生年金など国民的総意に基づく負債もあるからだ。重要なのは表面的な収支じり合わせではなくバランスシートで国民が財政の真の姿を理解することだ。

慶應義塾大学教授 加藤秀樹 公認会計士 廣田達人



コスト極大化の政治圧力やまず

 筆者らが参加する政策シンクタンク「構想日本」は先に政府のパランスシート(BS)を試算、公表した(図1)。本稿では、なぜいま国のBSが求められるのかを明かにしたい。


 景気対策の名の下に財政の大盤振る舞いが続き、公的債務残高は六S兆円に達した。景気が一段落した次は相当の長期間を覚悟して財政問題への取り組みを迫られるのは必至だ。

 その際、国・地方自治体の不良資産の処理、経費削減、そして増税が必ず問題になる。ここ数年企業が苦闘しているのと同じ状況に陥る。BSは国・自治体のリストラと財政秩序の回復への第一歩なのである。

 日本の官庁会計の基本は歳入と歳出で会計年度ごとの資金の出入りを把握する現金主義の単式会計で、家計簿と同じ要領だ。BS導入とは、これを将来出るコストも含めた「発生主義」による複式会計に変える試みである。

 BSは年度未の資産と負債の残高を一覧表で示すもので、現預金や国債、道路などの社会資本に加え公的年金の債務や公務員の退職手当など将来の負担も含まれる。それで国の財政の姿が鮮明になる。

 歳入・歳出が単なるお金の出入りによる「資金繰り」を意味するのとは対照的だ。現在の国の黒字とは『資金繰りの帳じりが合った」ことを意味するだげなので公債を発行すれは決算の帳じりを合わせられる。だから将来の負担増は一般の人の目に見えない。

 貸借対照表は企業が先に導入したため、営利を目的としない国や自治体にはなじまないといった誤解がまだある。しかし実は国こそBSが必要なのだ。企業は利潤を極大化することが主目的だから、常にコスト極小化に努める。

 だが国の場合は異なる。国は国民福祉の増進を目的に行政活動を行う。そして、予算とはそのコストの見積もりにほかならない。予算が大きければ国民福祉が向上するというわけではない。

 だが現実には獲得額の多寡で担当者や部署が評価され、しかも、それを使いきるよう求められる。


コストの負担で米に哲学と手法 

 予算増大への政治的圧力も根強く、国は常にコスト極大化圧カにさらされている。そして、そのコストが租税収入の範囲内に収まらなければ、負担は先送りされ財政規律は保てない。このため、行政コストの「負担計算」が必要となる。

 公債を発行して財源を賄った場合、収支計算の帳じりは合うが、それは負担の先送りであり、負担計算では赤字となる。これはBSでは「正味財産」の減少となり、それが積もれば債務超過となって将来に多大な負担を残す。

 もちろん国の場合正味財産をプラスにすること目的ではない。しかし、国民福祉の向上に役立たない出費や、負担の先送りには歯止めをかける必要がある。

 米国を参考にBSの大枠をみる(図2)。米連邦政府は負担計算の明確な財政法上の哲学を基に新たなBSを導入している。まず「行政コスト計算書」で様々な政策費目ごとに、コストから料金収入を差し引き、租税に依存する額を算出する。

 政策ごとの採算性も開示している。例えぱ通商・郵政.住宅政策はコスト総額八百六十億ドルに対し、料金収入が七百二十億ドルもあり独立採算の程度が高い。

 国債の支払利息を含めたこの年度の行政コスト総額は一兆六千三十億ドルで、それが租税負担の必要額となる。いうまでもないが、この行政コストは歳出ではない。過去・現在・未来の様々な歳出を基礎に、当年度の行政活動に伴う発生コストを計算したもので、減価償却の手続きも駆使されでいる。

 次の「正味財産計算書」は、いわば「負担計算書」だ。行政コストの一兆六千三十億ドルに対しで、個人所得税を中心に国民が一兆六千億ドル負担したことが示され、負担の不足が三十億ドル発生した。このため、期首の「正味財産」はさらに三十億ドル減少し、マイナス五兆三十億ドルとなった。

 もちろん国債収入は、租税収入などと違い、行政コストの負担先送りを意味するので、一兆六千億ドルには含まれない。国債を発行しても赤字は回避されない仕組みになっており、日本の歳入歳出重視の決算とは根本的に異なる。

 そしてBSの正味財産マイナス五兆三十億ドルは、負担の先送り状況を示している。長期の国家的な計画の下でいずれは解消する必要がある。

 米国の連結財務諸表は大幅な債務超過となっているが、それは固定資産の洗い出しや公的年金の扱いなど未解決な部分が多く、試行錯誤を繰り返して導入を進めている最中であることに起因する。従って、債務超過額に大きな意味はない。


国の債務超過 冷静な分析を 

 筆者らが試算した日本政府のBSでは、約九百兆円の債務超過となった。しかし、民間企業と異なり、国の債務超過はそれが即、財政破たんを意味するものではない。まず、BS上の土地・建物などは、国有財産台帳の数値を使用しているが、建設国債の発行対象経費の中に含まれる都道府県への施設整備補助金は、ここには含まれていない。それに見合う資産は本来各都道府県のBSに計上されるぺきだろう。

 ここでは国から地方に資金が流れ、国のBSは赤字で、自治体のBSは黒字になるという国依存の財政構造がそのまま表れているのである。国・自治体の連結BSによる財政評価も有効だろう。

 一方、国債の発行は、景気回復による税の自然増収を意図した一面もある。また厚生年金事業の債務超過六百兆円は、世代問扶養の考え方の下で修正積み立て方式を採用しているのであり、国民の総意に基づく長期的な国家的判断の帰結とも言える。

 BSで最も大切なのは、政策判断を正当化する「お化粧会計」ではなく、財政の実態をありのまま出すことである。赤字でも必要な政策は多いだろう。

 それでも、BSで事実をありのまま出さないと、国民はその政策のコストを理解できず、適切な判断ができない。財政改革は大蔵省だけの問題ではなく政治ひいでは国民全体が責任を負うぺき課題なのである。

 国にBSを導入し国民の「情報化」を進めないと、公衆の英知を結集することはできない。事実を出し、国民がそれを直視することからすべては始まる。

◇ ◇
加藤秀樹 京都大経済卒、大臓省を経て現職。専門は公共政策。
廣田達人 東京大法学修士(財政法)。専門は政府会計論。



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